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大阪高等裁判所 平成元年(行コ)23号 判決

大阪府東大阪市寿町一丁目一番三四号

控訴人

山本雅俊

右訴訟代理人弁護士

長野真一郎

城塚健之

大阪府大阪市永和二丁目三番八号

被控訴人

東大阪税務署長 岩坂弘

右訴訟代理人弁護士

森勝治

右指定代理人

山本恵三

辻尾末博

二宮昭武

石井真一郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し昭和五八年二月二日付でした控訴人の昭和五四年分ないし同五六年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分のうち総所得金額が各一〇〇万円を越える部分をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二主張

次のとおり訂正、付加するほかは原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決の補正

原判決四枚目裏七行目の「退席する」を「退席させる」と、同九枚目表一〇行目の「主張」を「反論」とそれぞれ改め、同一〇枚目表六行目の「支払を」の次に「柴田製作所が控訴人に対し」を加え、同一三枚目表末行の「63くず」を「63Sくず」と改める。

二  控訴人の補足的主張

1  控訴人はアルミくずを主たる取引商品としているうえ専用物置を持たないため、市況の高低にかかわらず取引をしている。アルミくずの粗利益率は一〇パーセントを下廻るものであるから、かかる商品を主として取扱う業者において算出所得率が平均で二〇パーセントとなることはありえない。これに反する被控訴人の主張は、その推計の基礎とする同業者の選定を誤り、控訴人の業態とはあまりにも違う異質の業者(その同業者率に三ないし四倍以上の開きがあることはこれを裏付けるものである。)を同業者とする資料による非合理的な推計結果であり、右同業者の数が多いこと、本件係争各年度を通じて右同業者間で算出所得率の高低の順位が固定していないことなどは、右同業者の特殊事情を捨象して右推計の合理性を回復させるものではない。

2  控訴人がその所得を算出するための合理的な推計方法として原審で主張した方法(売上金額を実額で確定したうえ、売上原価(仕入代金)を金属くずの種類ごとの原価率を用いて推計する方法)において、仕入れ単価を確認する資料である買伝票は、控訴人の仕入れの全てを記載したものでない点で資料として一定の限界があるものの、金属くずの種類ごとの原価率を用いて売上金額から売上原価を算出する資料として唯一の貴重なものであり、この買伝票を資料とする控訴人主張の所得推計方法による算定所得額は、被控訴人主張の所得推計方法が非合理的なものであることも示すものである。

三  右控訴人の補足的主張に対する被控訴人の反論

1  推計課税の基準となる同業者の所得率は、控訴人や同業者に個々的な種々の差異があることを前提としつつ、ある一定の基準の下に比較的類似していると認められる同業者の一群を抽出し、これから算出した同業者率に推計基準としての合理性があれば足りるのである。被控訴人が選定した九件ないし一二件の同業者は被控訴人が原審で主張した基礎と方法により抽出したものであるから、その平均値は同業者間の個々的な差異を包括して一般化するに足るものということができる。

2  控訴人主張の取扱品目におけるアルミくずが控訴人の全体取引に占める割合を裏付けるものはなく、その仕入れと売上げの対応が全く認められず、明らかにされていない多額の仕入れとその仕入れ単価があるから、控訴人主張の原価率は不合理であり、算定根拠を欠いている。

第三証拠

本件記録中の原審及び当審における証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も控訴人の請求は理由が無いからこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、控訴人の当審での補足的主張に対する判断を次のとおり付加するほかは原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

二1  控訴人がその売上額の過半をアルミくずとする金属くず業者であること、取扱品目がアルミくずと鉄などの非アルミくずとで原価率が大巾に異なるところから、同じ金属くず業者であっても取扱品目が異なることにより所得率に大きな差が出てくること及び被控訴人が抽出した同業者にその取扱品目及びその割合を明示する資料がないことは、弁論の全趣旨より明らかであるけれども、控訴人の主な取扱品目がアルミくずであるとはいえ、その売上金額に占める割合は原判決の判示(三一丁裏七行目から同一二行目)のとおり約六四ないし七一パーセントであり、控訴人が被控訴人において同業者として抽出した地域の類似規模の専業金属くず商と取扱品目の点で隔絶した業態を有するものと認めるに足る証拠はない(当審証人泉谷匡文の証言によってもこの事実を認めることができない。)から、業態の違いを事由に被控訴人主張の推計の不合理性をいう控訴人の主張は採用できない。また、控訴人は、被控訴人が抽出した同業者の算出所得率に三ないし四倍の隔差のあることをもって被控訴人主張の推計の不合理性の徴表である旨主張するけれども、右主張そのものを直ちには首肯できないうえに、試みに本件各年度分の同業者のうち算出所得率の最大値の者及び最小値の者の両端を除外すると隔差は二ないし三倍となるが、それでも右同業者の算出所得率の平均値は右除外前と大差のないものとなり(昭和五四年分で二五・七一、同五五年分で一九・三七、同五六年分で二一・八九)、平均化により個々の特殊性が捨象されている事情を裏書きするものといえよう。

2  控訴人主張の原価率そのものが採用できないことは、原判決の判示(三六枚目表六行目から同三八枚目裏七行目まで)のとおりであるから、右原価率を基礎にして本件各年度の控訴人の所得額を推計することは相当でない。

三  以上のとおり、控訴人のいずれの主張も被控訴人主張の推計の非合理性を裏付けるものということはできず、本件各処分は原判決理由三2(五)記載の本件係争各年分の各事業所得金額の範囲内でなされたものであっていずれも相当である。

四  そうすると、原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉田秀文 裁判官 井上清 裁判官 坂本倫城)

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